冒険の旅:Lethe編(10)

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2日に渡る旅の末、わたしは着いた。・・・まったく見当違いの、Calderaの町に。

自分自身のことながら、ほとほとあきれ果てる。。最初の旅でまっすぐBalmoraにたどり着けたのは、単に運がよかったからのようだ。近道をしてやろうなどと色気を出せばこのざまだ。道をちょっと外れるだけで、わたしの方向感覚はたちまちあやしいものとなる。悔しいが、認めなければ。わたしは、おそらく、恐ろしいまでの方向音痴なのだ。

もう足を上げて、前に出すのも億劫だ。疲労と、時間の無駄からくる脱力感ですっかりやる気が失せてしまった。かつて旅の途中で立ち寄った酒場に再び足を向け、今夜一晩部屋を借りることにした。今や金には困っていないのだけが幸いだ。嫌いな酒を一杯注文し、思い切りあおった。明日は昼過ぎまで寝てやろう。後で財布を確かめて、まだ金に余裕があるようならばこの町の魔術師ギルドから転送呪文でBalmoraに戻ってやろう。もう無駄に歩くのはごめんだ。金輪際ごめんだ。

一人でぐずぐずと考えながら ふと酒場の隅に目を留めると、酔っ払いたちの喧騒から離れたところに、一人たたずむダークエルフの男がいた。上等な服をきたその様子は一見優しげだが、隙を感じさせない。Balmoraの Southwall Cornerclubで見た連中のような、抜け目のない本性が垣間見える。盗賊か。そこでわたしははたとあることを思い出した。道端で出会った、あの貴族の娘の手袋。娘の宝石と心を盗んだ色男の強盗の話。そばの給仕を捕まえて話を聞くと、やはりこのダークエルフの男が、娘から預かった手袋を渡すべき相手らしい。

この盗賊はどんな顔で手袋を受け取るのだろう。たった一度の出会いであれほどまでに熱を上げている娘にはかわいそうだが、とてもこの男が喜んで受け取るとは思えなかった。何の不自由もなく、満たされて生きてきたであろう貴族の少女。かたや世間から疎まれようとも、闇に潜んで生きることを選んだ男。労働のあともない白い柔らかな手と、人の返り血と己の血、無数の傷を受けてきた手。その手が結ばれるとは考えがたい。そうだ、ダークエルフが半数を占めるこの島では、人種の隔たりはどのように受け止められているのだろう。だが、こんなことをわたしが考えても仕方がない。すべては二人の心次第だ。わたしはかばんから手袋をつかみ出すと(豪華な刺繍の施されたラベンダー色の右手の手袋は、他の荷物の下敷きになってだいぶよれよれになっていた) まっすぐ男のところまで歩いていった。少し酔っていたから、正確にはまっすぐとはいえないかもしれないが。

「失礼。あなたは Nelos Onmer?」
「いかにもそうだ。何の用かな」
「わたしはLethe。これを預かって来ました。あなたに渡すようにと」

Nelosは手袋を受け取ると、大切そうにそれを掲げてこう言った。
「そうか・・・・・・。届けてくれてありがとう。彼女の気持ちを思うと俺は嬉しい」

予想外の返事に少々驚いた。続けて話を聞くと、彼もまんざらではないようだ。しかしやはり、彼も身分や暮らしの違いが気になるらしい。盗賊という己の身を恥じているようでもあった。思っていたよりずっとまともな男と見える。ひょっとしたら、望んで盗賊になったわけではないのかもしれない。わたしが、望んでとらわれていたわけではないように。彼は一通の手紙を私によこした。もしよかったら、これをあの娘、Maurrieに渡して欲しいと。ここまで来たら、最後まで面倒を見てやるのもいいだろう。彼女のいるはずの場所とわたし行き先はちょうど方角も同じだ。Nelosの手紙を預かって、2階の部屋に戻った。封を開いて中をのぞいてやろうとも思ったが、やめておいた。

* * *

次の朝、といってももうすぐ昼というころにCalderaを発った。娘にうまく会えるかどうか心配だったが、彼女は以前出会ったあたりの道端に今日も立っていた。ひたすら一途に、Nelosに出会えることを信じていたのだろうか。手紙を渡すと、娘の顔は喜びに輝いた。すぐに彼に会いに行く、というようなことを言っていた。家はどうするのだろう。両親には何と言うつもりなのか。そんなことに他人が気を回すのは、もはや余計なお世話というものだろう。二人の心はもう決まっている。どうせ一時の気まぐれとばかり思っていたのだが、わたしの考えが浅かったようだ。少しだけ、娘をうらやましく思った。

道しるべを頼りに街道を行き、夜も更けたころにBalmoraに着いた。せっかく戻ったついでにCaiusのところに顔を出し(相変わらず彼は上半身は裸のままだ。暑がりなのかもしれない)、ギルドの支給品のポーション目当てにメイジギルドにも立ち寄った。しかしこれが間違いの元だった。Ajiraがすっかり頭に血を上らせて暴れていたのだ。やれライバルを妨害して来い、やれ私の大事な論文が盗まれたのとよくもまあ次から次へとトラブルと用事が出てくる。まるまる1日Ajiraのお使いとお世話で終わってしまった。不思議と憎めないのだが。遺跡に行くのは明日以降になりそうだ。今日はこれから地図をよく見て、位置を確認しなければならない。これ以上道に迷って時間を無駄にするのはごめんだ。