・ 仮想世界ブリタニアでの人との出会い

世界を去って、もうずいぶん経ちました。プレイの中で、わたしはいろんな事を感じました。ゲームのレビューや攻略なんかじゃなくて、心に響いたことを書こうとさせるちからのあるこのゲームは、やっぱり偉大なんだと思います。ダセエところも多いけど。


もくじ
  1. ゴメンね(1998年)
  2. 殺人者たちとの出会い(1997年)
    1999年加筆
  3. 平等な世界 (1998年)
  4. 好きになってしまったあの人 (1998年)
    2002年加筆
  5. 幽閉のGMスミス(1998年)
    2004年加筆
  6. 戦慄!DrummerBane (1997年)

  1. ゴメンね

    プレイ中、一度だけ会った若者がいる。その後どうなったか、まだプレイをしているのかも分からない。彼はいま23か24なはずだ。ラグがすごいね、と話し掛けてくるので、うん、わたしはすごくサーバから遠いからね、と返事をした。どこ?と聞くので日本から、と答えた。日本からと答えると、Great Lakesのプレイヤは大抵びっくりしたものだ。彼も驚いたのかもしれないが、そういうそぶりは見せず、ただ、そうか、日本の人なんだ・・・と言うと黙りこくってしまった。

    「どうしたの?急に黙ってしまって」

    「君は日本人なんだね、どうしても聞きたいことがあるんだ・・・」

    「ねえ、日本人は今でもアメリカ人を憎んでいるのかい?僕たちは日本に原爆を落とした、沖縄も横取りした、法律もむりやり書き換えてしまった。うらんでいるんだろうね・・・」

    「ゴメンよ、僕は日本人と仲良くしたいんだ・・・日本はいい国だ、どうしてあんなひどいことを昔のアメリカ人がしたかわからないよ、日本が妬ましかったのかもしれないね」

    なに?

    一体彼は何をいっているのだろう。なぜそんなことをいいだすんだろう。わたしは何も言えなかった。

    わたしはムカシの戦争のことを、知識として記憶しているだけだ。別に、それ以上の感情はない。この目で戦争を目にしたわけではない。多くの人の命を一瞬で奪う兵器、戦争、そういったものがあっては欲しくないと心から願ってはいるが、アメリカを憎いなどと思ったことはこれっぽっちもなかった。だってもう終わったことだもの。わたしは戦争を知らないもの。

    「そんな事はないよ、過ぎ去った事だもの。日本はアメリカを憎んでなんかいないよ」となんとか返事をしたけれど、それは彼の心を慰めるものではなかっただろう。本音だと信じてはもらえなかったのではないだろうか。わたしは、アメリカのある若者がそんな気持ちを心にもって生きていることに、その時まで気づかなかった。ただものすごくショックだった。

    一度韓国のプレイヤに出会ったが、彼は怒ってわたしにファイアボールを連射し、こういったものだ。「日本人は死ね!死ね!俺のおばあちゃんは昔、日本人にそれはひどいことをされたんだ!そのひどいことの結果で生まれたのが俺の母さんだ!そして母さんから生まれたのが俺だ!俺は腐った日本人の血なんかこの体から絞り出してしまいたい!おまえの血も切り刻んで絞り出してやる!死ね!死んでしまえ!」

    どうしていいかわからないので、わたしは彼に好きにファイアボールを打ち込ませて、死ぬことにした。彼はゲーム世界ののうつろな体からわたしの赤いグラフィックで描かれた血を絞り取って満足しただろうか?



  2. 殺人者たちとの出会い

    PK。

    プレイヤーキラー。きょうも彼らはわたしたちを殺す。

    単に「あ〜あ、殺されちゃった」とバンクに何とか戻り、自力で装備を取り戻す人。「畜生、ムカツク!やりやがったな!」と、リターンマッチを挑む人。ただ激怒し、なにもしないひと。PKに「その時」のキャラクタの命だけでなく、大切にしてきたつみかさねと共に「やる気」まで殺がれてしまってとても悲しくなる人。いろいろいる。

    UOの中にPKはたくさんいる。PKの意見を聞いたこともある。PKの友人もいる。ヒステリックにPKを嫌う人もいる。PKがいかに他人の迷惑を考えないひどい「プレイヤー」か切々と語る人も入る。なぜか、UOに深くはまった人はたかがゲーム、のはずのUOとゲーム世界の外にあるはずのプレイヤー自身、自分の感情を切り離せなくなってしまう。あの世界にいるのは、まぎれもなくみんなの心を分けられた分身なのだ。

    PKの話題が掲示板や他のプレイヤーのにっきに出るたびに、ああ、これに答えなんか出やしないのに、と思う。わたしは答えを出すことを放棄しているのかもしれないけれど、知らない人とたくさんでゲーム性だのロールプレイだのPKの是非などについて話したくなんかない。長くなるし、つらくて面倒だ。(みなさんもわたしの文を読むときは、返事なんかしないで、読んだら忘れてください。世の中に、チリほどたくさんある意見の一つです。)

    さてわたしはむかしPKKギルドに身を置いていた。PKKというのは名ばかりで、リーダー自らPKを影で行っていた、Dupeを行ったメンバーがいたなど、よどんだ膿を隠し持っていたギルドだったが、わたしは自分を取り巻くコアメンバー達がとても好きだった。ギルドが崩壊する直前まで、わたしは何も知らなくて純粋にギルドにいることを誇りに思い、メンバーと共にいることを愛した。

    注:Dupe・・・duplicationの略。アイテムを不正に複製するチート行為。昔のUOではこれが比較的簡単に行えたので家に秘薬を30000個ずつしまっておくなど実に簡単なことだった。

    安穏と生きていたわたしに力と闘いの日々をくれた彼らは自分の意見を持っていて、まっすぐで、仲がいいなんて言ったけれど実のところ、衝突も随分した。仲がいいから、腹のそこまでさらけだす。さらけ出された腹の中身が気に入らないと、大喧嘩にもなった。とにかくまっすぐで、頑固で、馬鹿ヤロウで、全然意見を曲げない。わたしも意見を変えるはずがない。呆れてお互いに笑い出すまで言い合ったことだってある。PKを討ち取る作戦の合間にそんなことが起こって、Banesが「オマエラ、まだ来ないの?俺達、もう狩り終わったから。寝るネ。おやすみ、バカヤロウ達」なんて言いにきたりしたこともあったな。

    注:Banes・・・1998年当時最も活発であったPK集団。ギルドとしてのはっきりした形こそ持たないが、団結力と戦闘力は高かった。

    PKと聞くと、ひとくくりにどうこういうより彼ら一人一人との出会いを思い出したりしてしまう。それだけ当時のGreat Lakesシャードには、個性的な光り輝くPKが多かった。キチガイ風、義賊風、山賊風、殺しの美学を追い求める男。例を挙げて思い出を語れといわれれば、何人でもいけそうだ。

    そういえば こんなPKがいたっけ。殺し屋、PKとして確固とした信念を持った男。彼の話をしよう。

    「KILL U(コロス)」

    たった一言彼はわたしの目の前に立ちふさがってこう言った。手にはぎらぎらと光るハルバード、屈強な体を覆う漆黒の鎧、深紫のマント。

    わたしは戦闘ギルドにいたころの習性で、目で分かる情報から、相手と周囲の状況を探る。珍しい単独行動のPKだ。いまのところ魔法は使う気がないらしい。詠唱止めか毒ダメージで殺すのを狙っているのだろう。走ろうとすれば紫ポーションぐらい投げてくるかもしれないな。多少ダメージを受けたとしても、おそらくリコールで逃げ切れるだろう。そう思うと余裕ができた。ちょっと話をすることにした。

    「Why?(何でよ)」

    「Anyway, cause Im PK(なんでもだ、俺はPKだからだ)」

    なぜと聞かれて一番多い答えは「俺はPK」だ。PKだから殺す。殺すためにいる、だから殺す。

    「そっか。やってみれば」

    わたしは言った。だがその後の彼の言うことはちょっと他のPKと違った。普通のPKなら無言で襲ってくるか、DIE DIE DIE(死ね 死ね 死ねー!)を連呼するぐらいのものだ。

    「俺はお前を殺す、でもお前はがっかりしなくていい。ゲームだからだ」

    「がっかりするわよ。わたしは戦利品を持ってこれからバンクに行くところなのよ、秘薬を買うお金が必要なのに」

    「PKに会ったら逃げるか殺されるかしかない。だからお前は選択肢がない。しょうがない、俺に会ったのだから。がっかりしなくていい」

    「がっかりするもん。じゃあわたしは抵抗するわ、魔法を使ってあんたを焼くわよ。ただがっかりするのはごめんよ」

    正直言って、稼いだ金はちょっと惜しかった。マジックアイテムもある。それでもわたしはこのPKにちょっと興味を持った。

    「お前は勝てない。俺のHITSは92ある。殴り合えば俺が勝つ。お前が呪文を唱えれば、その間に俺が殴るので結局俺が勝つ」

    注:当時のUOでは、STRの数値=ヒットポイントの数値であった。ゆえにこのキャラクタはSTRも92である。STRの低い純粋メイジはヒットポイントも少ないため非常に直接攻撃には弱かった。なお HITSというのは hit pointsに由来する語。

    「じゃあわたしは負けるのね、がっかりするに決まってるじゃない。2時間敵と戦って、こつこつ金とアイテムをためたのに、あんたにとられるんだわ」

    「俺は負けられない。この道を歩いているうちは負けられない。負けたらこのキャラクタは死ぬ」

    「どうして死ぬのよ。ブリタニアでは誰も死なないわ」

    「いや死ぬ。俺は負けたら死ぬんだ」

    どうやら賞金首のステータスダウンのことを指すのではないらしい。彼は「負けたら死ぬ」と決めているらしいのだ。

    「何でか知りたくなったわ。この戦いが終わったら教えてよ。幽霊になってもわたしはあんたのスピーチが聞けるわ」

    「同じ狩り場にとどまって幽霊に身の上話をするPKはいない」

    「じゃあ、メールで説明してよ。ハイ、メモしてねわたしのメールアカウント。」

    「・・・・・・わかった。これは俺のたった一つ守っているポリシーなんだ。でも話す機会があまりない。いいだろう。必ずメールする。じゃあ行くぞ。死ね」

    闘ってみたけど、やっぱりかなわなかった。Estellaはサックリ死んだ。彼は「ぜんぶもらう。服とかももらう。ゲートは出さない。歩いて帰るか、誰かを頼れ」というと、手際よくわたしの死体をばらし、アイテムをとってリコールで消えた。ここはディシート地下3階。孤島にあるので、歩いては帰れない。わたしは上まで駆け上がり、他のPCの支援によってトリンシックのバンクに戻り、装備を整え、秘薬を残り少ない貯金で再度買い揃えた。

    2日後、メールがわたしの元に届いた。

    ステラ、約束通りメールする。お前が俺のともだちのともだちだと知った。メールアドレスを見て気づいたが、日本人なんだな。珍しい知り合いができた。

    俺は最初は普通のNewbieだった。次に普通のPCになった。でもある時仲良くプレイしていた友人にだまされた。前から変だと思ってたんだ。奴と一緒に狩りに行くと戦利品がモンスターの死体に残っていないことが何度もあった。死ぬと彼は俺を生き返らせてくれたが、足りなくなっているアイテムがいくつかあった。拾えなかったんだよ、ごめんな、と彼は言ったがみんな嘘だったんだ。奴は俺の家にある日バグ侵入して、大切に取っておいたアイテムを全部奪って行った。

    俺は奴を殺した。会うたびに殺した。奴の新しいともだちもみな殺した。奴等は俺を薄汚いPKと呼んだ。その日から俺は薄汚いPKになった。それでよかった。

    物事には何でも終わりがあるんだとよくわかった。現実の俺はいつか死ぬ。俺の祖母もこの前死んだ。UOというゲームだって、いつかみんなが飽きて死ぬ。家だって朽ちる。だから俺はゲーム内で自分をMortal(死すべき者)に定めることにした。何か約束を一つ決めないと、この現実世界の限定版ミニチュア( This "Limited RealWorld" )に精神的にべったりになってしまって、大人のくせに必要以上に怒ったり悔やんだりしてしまいそうだからだ。

    俺はみんなから嫌われるPKだ。実は結構楽しい。ギャーギャー吠えるだけで何も反撃してこない人間たちは、殴るだけでコロっと死ぬ。誰も、俺が負けたらすぐさま死ぬ体だとは気づかない。俺の名前は青いから、評判の低下を恐れて襲っても来ない。川岸の向こうから正義を叫ぶのがブリタニアでははやっているらしい。
    (注:昔の話なので旧パッチの状態です)

    俺は一度でも地に体がついたら、そのままログアウトしてキャラクタを削除することにしたんだ。だからこいつの前には別なキャラクタがいたんだ。3ヶ月前までは。3ヵ月でここまでこいつを育てたんだ。このルールが知られたら、俺を殺しに来る連中がたくさんいるだろう。いくらなんでも3対1では勝ち目がないな。この体もそろそろ終わりかもしれない。

    話を聞いてくれてありがとう。理解してもらえないかもしれないが、俺は俺のルールが気に入っている。だから誰になんと思われようがかまわない。また俺にダンジョンで出会わぬよう祈ってくれ。

    幸運を

    その後彼には会っていない。PKにしちゃウエットすぎる男だったように思う。WiZaRd'S BaNeのような発狂型のイカレた殺し屋が一番殺りやすい。殺されても諦めがつく。本人も、「crazy is easy! (キチガイライフはお気楽ステキ!)」といってたっけ。



  3. 平等な世界

    意外と知られていないことだが、UOを楽しむプレイヤー層には聴覚障害を持つ人が他のゲームより圧倒的に多い。どこにも障害がないプレイヤーであっても、処理を早めるために、サウンドや音楽をOFFにしている者はかなりいる。そして、UOでのコミュニケイションはたとえ裏でICQやIRCを利用していたとしても、文字だけで行うことができる。つまり、目が見えて、指が動きタイピングができれば一向に問題はないのだ。わたしの知らないだけで、足の悪いプレイヤーだって多いかもしれない。わたし自身、旅行に出かけたときに足に割に大きな怪我をしたが、UOのプレイにはまったく支障がなかった。せいぜい痛む時に中座して湿布をはり替える必要がある程度だ。

    わたしの出会った戦士も、そんなプレイヤーのひとりだった。PKKギルドDEを脱退し(本編参照)、UOのプレイもほぼ引退した後に彼と出会った。久しぶりにブリタニアにダイヴインし、ひょんなことからダンジョンでともに狩りをし、サウンドの話になったときに彼は自分が聴覚障害のあることをわたしに告げた。

    「僕たち同じ、音のない世界に今はいるんだね。でも全然平気だ、君の顔はちゃんとみえるし、声も文字になって聞こえる。文字が僕たちのコミュニケイションを導いてくれる」

    それからいろいろな話をした。UOは彼ら聴覚に障害のある人たちの間でとても人気があるのだという。外に出たいが周囲の音が聞こえない彼らは、出かけるのが恐いと思うこともある。距離が離れてなかなか仲間とも出会えないため、電子メールやIRCなどを使って話をすることが多い。そんなある時、「これなら距離に関係なくあって一緒に話せるよ」とある一人がUOの存在を口にしたのが始まりで、またたく間に彼らの間でUOは普及し、プレイが開始されたそうだ。毎日のように時間を決めて酒場に、塔に、時にはダンジョンに集まった。恐れず見知らぬ人との出会いを楽しむことさえできるUOは、彼らにとってゲームではなくツールであった。

    「ところがね、僕たち最初は一緒にプレイしてたんだけど、いまはバラバラなんだ。メールで《俺この前リッチを狩りまくったぜ》とか《家を買ったから遊びに来てねえ》とか情報を交換するだけなんだよ。みんな、それぞれ別々のギルドに入って、それぞれの仲間と一緒にプレイしてるんだ。ブリタニアにいる限り、僕らはべつに耳の悪いもの同志で手話で会話したりする必要はこれっぽっちもないんだもんね」

    「僕らにとって、ブリタニアは障害のない世界なんだよ。とても楽しいよ。PKにやられて悪態を吐くのさえ楽しいね」

    その日わたしはまったく思い付きもしなかったゲームの可能性を彼に教えられた。「また会おうね、一緒に狩りをしようね」と声をかけて彼と別れたあと、彼のプレイにこれからも楽しいことが多くあるようにと願った。


  4. 好きになってしまったあの人

    プレイ時間が一年を超えようとすると、ひとり、またひとりとブリタニアを去るものが現れた。この世界に立つ理由を失ったもの、興味をなくしてしまったもの、それぞれの理由をもってリアルライフに還って行った。その中で、「恋」のゆえにブリタニアを去りたいという気持ちになってしまった人たちを、わたしは知っている。

    どの女もどの男も同じ顔をしているこの世界で、彼ら彼女らはたったひとりのこころをつかみたい相手を、かりそめの世界で見つけてしまった。本当の姿の見えない恋。それはどんな気持ちだろう。プレイヤーはみんな同じ顔のキャラクターを通じて、透視するかのように本当にその人を見ることができるのだろうか。わたしにはよくわからない。でも本当に、たくさんのブリタニアで生まれた恋を見た。多くは、片方がリアルライフに帰還してしまうことで終わりを告げたものだ。扉を開き、ブリタニアにやってきた者達は扉を開き、また現実世界に帰っていく。

    UOというゲームを通じてたくさんの人に出会った。Estellaというキャラクタはわたし自身の地の性格のままにプレイされていたけれど、ある程度の「リアルライフの自分」と「ブリタニアの自分」の間の線引きはあった。まだ熊にも鹿にも勝てないころ出会い、命を救ってもらったエレと同じギルドに入り(この辺は本編参照)、ついには結婚式もした。かといってわたしたちの関係には別に変わりはなく、わたしはただ単に大きなお兄さんを慕うような気持ちで彼について歩き、他のギルドメンバーと5-6人でつるんでダンジョンで暴れるという毎日を送るだけだった。結婚式にはエレのリアルライフの奥さん、二人の息子までモニタの前に参列し、お祝いの言葉をICQで伝えてくれた。彼の奥さんとは好きな本のジャンルがよく合うことから、「だんな様」を差し置いて二人でPCを独占し、2時間も3時間も読書感想チャット会を開いたりした。とても楽しかった。わたしはあのころ、実生活に嫌気が差していたからブリタニアでの活躍できる自分や暖かい声をかけてくれる仲間がありがたかった。それでも、こういう楽しさは今だけだとわかっていたし、これは仮の世界だという気持ちはぬぐえなかった。ましてやゲーム内の人間を好きになるなんてありえない話だった。絶対に手に入らないものを追いかけるほどロマンティックな性分ではない。

    しかし、ギルドの中ではブリタニアこそが自分の求めていた「唯一の」世界になりつつあるメンバーも多く見られた。その理由は簡単、世界共通。
    1)リアルライフの不満。ブリタニアがそのはけ口、ストレスを消化(消火 かもしれないし、昇華 かもしれない)する場所になる。
    2)ゲームの世界で出会った人を好きになってしまった。彼/彼女に会うにはログインし続けるしかない。
    ギルドハウスには、わたしに負けず劣らず常にブリタニアにログインし続ける人間が軽く10人はいた。激戦区を常駐メンバーが交代で見張るのなど朝飯前だった。日々戦いを繰り広げた宿敵Banes(PKギルド。詳しくは本編参照)の連中にも「お前ら いつもいるな。その廃人根性にだけは敬意を払う。敬意を払ったところでそんじゃそろそろ死ね」などと言われたりもしたものだ。

    わたしとともに常駐ヒーラー部隊で活動していた女性、Aもその一人だった。家庭内での不和が絶えないというAはカナダからのログイン。同じ年頃の同性同士、わたしたちはたちまち仲良くなった。ギルドハウスの中に勝手に「Ladies Only(女性だけ)」のルームをつくり、ゴミや箱でバリケードを作っては恋愛話やちょっとしたゴシップ、昨日こてんぱんにしてやったPKどもの首の話などをして何時間でも楽しんだものだった。 ある日彼女は、ブリタニアであるメンバーの男性とブリタニアで結婚すると打ち明けてくれた。もともと彼女たちの仲のよさは十分見知っていたので、ある程度は予想がついていた。みんなで熱々振りを冷やかしてやったりもしていた。もちろんわたしは喜び、祝福の言葉をおくった。時差が少々つらいものの、当日は早起きして彼女と彼の晴れ舞台を見ることにした。

    しかし、多くの出席者の集まった華やかな結婚式が済み、披露宴もたけなわのその時に突然新郎は消えてしまった。「CL(コネクションロスト)じゃない?いやーね、こんな時に」「あいつらしいな。少し待とうか」と最初は会場にいたみんなも笑っていたが、10分、30分、1時間と経つにつれて、何かトラブルが起きているのではないか・・・という暗い気持ちが場を覆い始めた。「続きはまた明日にしましょうか、みんな来てくれてありがとう」という新婦の言葉で、とりあえずパーティはお開きとなり、招かれた人々は鎧に着替えてドラゴン狩りに行ったり、ベンダーの商品メンテに向かったりとそれぞれの日常にとりあえずは戻っていった。

    悪い予感は的中していたと気づいたのはその次の日。エレとわたしの結婚式のようには行かなかったらしい。Aとその日ブリタニアで夫婦の誓いをあげたTは、実の奥さんによって結婚式を妨害されたのだ。わたしの当時の夫や、エレの奥さんは「ロールプレイの一環」として結婚式を第三者として楽しんで見ることができた。一緒にディスプレイの前で式に参加し、お祝いの言葉を贈りあい、「夫や妻が二人もてるなんて幸せよね!」なんて冗談を飛ばしたりしたものだ。しかし彼の奥さんにとっては、ゲームの中ですら他の女と結婚するということは「裏切り行為」にしか思えなかったのだ。彼女は自分を裏切った伴侶に怒り、電話線を壁のジャックから引き抜いた。

    一般的な考えとしては、わたしたちのそれよりも彼の奥さんの考え方の方がまっとうだろう。大好きだからこそ、やきもちも焼く。それが自分の知らない、わけのわからない女性になのだから、複雑な気持ちだろう。問題はこれだけではなかった。さらに悪いことに、AはTが既婚者であることを知らなかった。TはAの気持ちをつなぎとめておきたいばかりに、自分に妻がいることを一年以上もずっと黙っていたのだ。事実を知ったAのショックは大きかった。彼女もまた、純粋な好きという気持ちが踏みにじられたように感じた。結局自分の好きだった男は、妻と自分を天秤にかけながら楽しんでいたのかと疑いを持つようになってしまった。

    「エスト、わたし、今日でもうここには来ない。こんなところこれ以上いられない。やっぱりブリタニアはうその世界なのね。ロールプレイって嘘をつくことなの?顔を隠して人と付き合うことなの?」
    「彼とは、Tとは話しないの?このまま行っちゃうの?」
    「話したくない。ごまかされるのなんてもうたくさん」

    そして彼女はブリタニアから去り、二度と戻ってこなかった。わたしは気の会う女友だちを一人失って落胆し、どうしていいかわからずに今度はTに会いに行った。

    「なんでAを止めないの?好きだったんじゃないの?」

    ところがTはもごもご言うばかり。いつもはあんなすかっとした爽快なヤツだったのに、恋の話になったらなんてはっきりしない男、と一瞬わたしは本当に腹が立ったがすぐに気がついた。彼は見張られているのだ、現実世界の妻に。だから本音を話せないのだ。

    監視つきのゲームがおもしろいわけはなく、Tも程なくゲーム中に姿を見ることはなくなった。


  5. 幽閉のGMスミス

    今となってはGMスミス(鍛冶屋)はさして珍しくはないけれど、1997年〜1998年当時は、それはそれは珍しい存在だった。色つき鉱石もなく、Exceptionalなんていう品質の違いもなく、もはやキャラの性能云々ではなくてただ己の意地を貫くだけの長いつらい道だった。GM鍛冶屋は、その称号だけでみんなに感心され、尊敬された。

    わたしのギルド Dark Empireにはお抱えのGM鍛冶屋が一人いた。名はセイン。プレイヤーは13歳のかわいい少年で、父のペリンと一緒にDEに入隊していた。前線で活躍するGreat Lordのペリンと非戦闘部隊のセイン親子は同じアカウントを共有しており、夕はセインが、夜はペリンが出てくるというタイムスケジュールを持っていた。わたしたちはこの親子二人をそれぞれ大事に思い、ゲーム内では本当に親しく付き合ってきた。とりわけ、GM鍛冶屋のセインはギルドメンバー全員に大切にされた。 日々の戦闘で消耗していく装備の修繕をおこなう確かな腕は、セインだけのものだったからだ。

    セインは本当にこどもっぽくて、おちゃめで、年のせいか多感すぎるところもあったが誰からも愛された。DDH(当時のPKギルド)に父が殺されたとわんわん泣いて、1時間たっても泣き止まない。しまいにはDDHの連中がIRCに来て「セイン、パパを殺して悪かった。でも俺たちは正々堂々、納得づくで正義の味方と悪者ごっこをしているんだからお前もわかってくれなくちゃ」と彼をなぐさめるという珍事もあった。「ドラゴンランス戦記」の主人公にちなんで名づけられたギルドメイト、キャラモンの名前がいつまでたっても覚えられず「ねえキャロメン」「おはようキャロメン」と呼びかけては短気なキャラモンに叱られていた。

    グランドマスターの腕前と、仲間からの絶対の信頼と友情を得たセイン。その代わり、セインはギルドマスターから「城から一歩も出てはいけない」という命令を受けていた。(注:これについては昔のUOについて のスキルの箇所を参照) むやみに外に出て、他人が雑多なスキルを使っているところに出くわせば、いつセインのGMは失われるとも知れない。スキルを守るため、セインは城の一番奥の部屋に押し込められ、1年以上もの間ずっとそこでメンバーの戦いを見守ってきた。

    * * *閑話休題
    「なんで?セインは別なキャラクターを作ればいいじゃん」と思った人も多いだろう。今でこそ複数のキャラクターを使い分け、複数のアカウントを一人で持つことすら当たり前になってきたMMORPGだが、昔は1アカウントはもちろんのこと、「ブリタニアでの自分」を一人一人定めて、そのキャラクターだけを大事に使っていることの方が普通だった。(だから、わたしたちはギルドマスターのマルが影で違うアカウントを使い、PKの一人として暴れまわっていたことを知ると、いっそうショックを受けて深く傷ついたのだ。仮面を付け替えるように二つのアカウントを使い分けるマルの姿を見て、わたしたちは「だまされた」としか思えなかった。マルがNoct-これが彼の"別名"だった-と同一人物であることを悟られまいと、仲間を使って方やマル、方やNoctのアカウントで同時ログインしてわたしたちの前にたびたび現れたことなどは、犯罪にも等しく思えたのだ。当時のUOプレイヤーはバカ正直で純粋で かわいそうなくらい傷つきやすい連中ばかりだった。自分も含めて。バカだった。信じて、裏切られて、泣いてばかりいた。でもそこが好きだった)
    * * *

    わたしはログアウトの前にはできるだけセインがいる城に戻るようにしていた。いつも奥の間でセインはじっと座って、PK達との戦局を伝えるIRCをじっと見ていた。セインは鍛冶のスキルしか持っていない。暇つぶしにデーモンを召喚して遊ぶことも、Hideのスキルを使ってかくれんぼをすることも許されない。他のスキルを使うと、たちまちGMスミスでなくなってしまう可能性があるからだ。唯一彼が外に出るための方法は、父ペリンのキャラクターを使うことだけだった。しかしセインは「ペリンはパパなんだ。だから僕じゃない、使えないよ」といって1-2度しかこの方法を試したことはなかった。

    「おかえりエスト。今日はどうだったの?ベインたち(当時目立っていたPK集団)をやっつけたの?」

    セインはとても知りたがりで、その日の勝敗と戦利品だけでなく、誰の腸が地面にばら撒かれたかと言うことまで知りたがった。(注:当時は死体ばらしは日常茶飯事。特にPKはダブルクリックで棺おけを出す手間を嫌い、獲物は殺したらすぐにばらして持ち物を直接 地面に出してしまう方法を良く使っていた)1年に及ぶ長い間、ずっと地下牢のような場所に押し込められたまま、感謝され続けた彼は、絶対に「外に行きたい」と駄々をこねることはなかった。

    でも ギルドが崩壊したその日、セインは城を飛び出した。ギルドのタグが外れてしまったその日、次々IRCのギルドチャンネルからメンバーが去り始めたその時に、セインは扉を開けて、制服も脱ぎ捨てて、修理のために預かっていた剣を持って泣きながら森に入っていった。わたしたちは自分が受けたショックの処理に精一杯で、セインに気づかなかった。気づいても、すぐにとめることはできなかった。

    ようやく気持ちが落着いて、 他人のことにかまう余裕ができたとき、わたしたちはすぐに彼を探さなければと思い立った。でも遅かった。セインはオーガとトロールに囲まれ、殺されて、その場で復活し、灰色のローブを身にまとって呆然と野原に立っていた。殺されたのは1度や2度ではなかったらしく、同じローブが何枚か地面に落ちていた。

    「みんなのためにがんばってきたのに!みんなのためにがまんしたのに!ひどいよ!」

    失ってしまったのは、グランドマスタースミスの称号じゃない。ステータスでもない。たった一つの自分の居場所、それをなくしてセインはわんわん泣いた。「ごめんね」というのが精一杯だった。彼はまだたったの13歳だった。大の大人ですら本気で泣いたり、怒ったりした世界だったというのに、セインはどのぐらい傷ついてしまったんだろう。彼はリアルで今、どうしているんだろうか。泣いていないといいな。大人になって、ブリタニアのこと忘れてしまっているといいな。もしまた会えたら、わたしのこと、みんなのこと、許してくれるだろうか。


  6. 戦慄!DrummerBane

    わたしの所属していたPKKギルド Dark Empireは日夜PKギルドと戦っていた。数ある凶悪なPKギルドの中で、わたしたちがもっとも多く剣を交え、またもっとも強く憎み争っていたのが Banesという名の勢力だった。正確には、BanesはPK「ギルド」ではない。ギルドシステムが導入されてもしばらくの間、彼らはギルドを結成しようとはしなかった。彼らはただ集まり、ただ暴れ、ただ騒ぎを起こし、ただ盗み殺して去っていく。無秩序をモットーとし、混沌を楽しんでいるようだった。主要メンバー の何名かに 〜Bane という名前がついている以外に、衣装などに特に共通点があるわけでもない。彼らの行動原理には理解しがたい点が多く、「PKが出た!助けて!」という通報に駆けつけてみれば、当のBanes同士が殺しあっていることもあった。「何をしている」と問えば、「殺し。わかんねえの?お前も混ざれ、っていうか死ね死ね死ね」「DEが遊びに来たぞ、かまってやれー」と返されるありさま。よく言えば細やかでやさしげ、悪く言えば傷つきやすく思いつめる性分のDEメンバーの多くは、Banesの振る舞いにかなり心を乱された。 「あいつらは狂ってる」と吐き捨てるものもいた。わたし自身も、当時は英語の細かいニュアンスがつかめないせいもあったし、また自分のギルドびいきになってしまうせいもあって、あいつらはみな頭がおかしいんだ、人に迷惑をかけて喜ぶだけのいかれた連中なんだ、と思っていた。これは、そんないかれた連中の中で もっともいかれた奴のしでかした とんでもない仕業の話。

    それはちょっとした小競り合いから始まった。 わたしたちは普段、ニュジェルムの銀行屋上を集合場所にしていた。いつものようにそこに集まり、今日はどのような活動をするか、を話し合っていたらしい。らしい、というのはわたしは時差の関係で会合にはいつも間に合わないからだった。どういう理由でかは未だにわからないが、会合の場にBanesの一員WiZaRd'S BaNe(以下、WizBane)が現れ、先に述べた小競り合いが起きたらしい。 このWizBane、Banesの狂気の象徴とまで言われた男で、とにかく奇怪な行動が多かった。乱戦となれば敵だけでなく味方も殺す。かと思えば仲間の危機には絶叫しながら駆けつけ、命を投げ出して救ったりする。町で出会えばフレンドリーに近づいて来て世間話を始めるときもあれば、ダンジョンで見るなり爆弾を投げつけてくることもある。秘薬の買出しにどこまでもついてきてトレードウィンドウで指輪を渡そうとしてきたりと 本当に彼にはわからないところが多かった。

    そのWizBaneをどうにかしてわたしの仲間は、ひどく怒らせてしまったらしい。わたしがログインしたときには、もうすっかり頭に血ののぼったWizBaneが屋上でわめき散らしている状態だった。

    「覚えてろ!後悔させてやる!お前たちは、絶対にひどく後悔するからな!」
    "You'll be sorry!"

    と 言って、彼はリコールで消えた。仲間は「気ちがいだ、放っておこう」と、これ以上彼に関わらないことを決めた。そしてわたしのように遅れて現れるメンバーのために、打ち合わせの続きを行おうとした。

    たたたん たんたたんたん たたたん たたたた

    そのとき、軽やかなドラムの音が周囲に響いた。「おい、誰だ。やめろ」サブリーダーは言った。「幽閉のGMスミス」でもお話したように、当時のスキルシステムは「伝染」能力を持っていた。近くで他のPCが使ったスキルは、そばにいる無関係なキャラクターのスキルの上昇にも影響を与える。そのおかげで、当時のスキルロックシステムがなかった状態では、そのようなキャラクターを寄せ付けることは、GM喪失に直結していた。わたしたちがニュジェルムの銀行を集合場所にしていたのは、余計なスキルを使う人間が少なかったからである。

    たたたん たんたたんたん たたたん たたたた

    ドラムの音はやまない。それどころか、近づいて来ているようだ。

    なんだかおかしい、いやな予感がする。そういぶかしむわたしたちの立っているすぐそばに、青く輝くムーンゲートが開いた。そこから現れたのはオレンジ色のおさげの少女、白いシャツを着てロングスカートは真っ赤。クリックして名前を調べ(AllNamesはまだ実装されていない)、わたしたちは震え上がった。

    DrummerBane-DE

    冗談にしたって程がある。Baneの名をつけ、ついでにDark Empireのメンバーであることを示す-DEまでご丁寧に後ろにつけて、颯爽とWizBane操る、少女の姿をした地獄からの使者は現れた。わたしたちを絶望の底へと突き落とすドラムを鳴らしながら。

    たたたん たんたたんたん たたたん たたたた

    「後悔させてやる!後悔させてやる!後悔させてやる!後悔させてやる!」

    カルマが下がるのを覚悟で、数名のメンバーがエナジーボルトを放ち、DrummerBane-DEを葬ったが時すでに遅し。まったく戦いに不必要なバードのスキル上昇と引き換えに、その場にいた7名のGMが失われてしまっていた。ショックでログアウトするもの、泣くもの、怒り狂うもの。このため、Dark Empireはその戦力を大きく削がれ、全員が再びGMに復帰するまでの間、半活動停止を余儀なくされた。

    なぜか わたしはWizBane-DrummerBaneに腹が立たない。よくやったもんだ と思ってしまう。今となっては笑いがもれるばかりだ。なぜ彼を憎めないのかはわからない。別に賞賛するつもりもない。はた迷惑な話だった、とは思っているのだが、どうしても怒りに結びつかないのだ。

    ただ、彼の心の構造がどうなっているのかは 未だにわからない。

操作端末 Estella とその方向性
こんな世界で暮らしました
おおまかな歩み (1997年11月〜1998年9月)
その後Estellaはどうなったのか

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